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名古屋高等裁判所 平成10年(う)15号 判決 1998年3月30日

本籍及び住居

愛知県豊橋市東畑谷町字一リ山九番地

農業

山本勝一

昭和一三年一月一〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、平成九年一二月四日名古屋地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官江幡豊秋出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人渡邊一平作成の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用するが、その要旨は、被告人を懲役一〇か月(執行猶予付)及び罰金三〇〇万円に処した原判決の量刑が重過ぎて不当である、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討する。

本件は、農業を営む被告人が、いわゆるえせ同和団体に脱税工作を依頼し、一三五〇万円の所得税を免れたという、所得税法違反の事案である。

被告人は、飲酒やパチンコなどの遊興等により、サラ金からの借金が嵩み、その返済のため、土地を売却することになったが、売却代金の大分部が借金の返済に回ってしまい、税金の支払いにも事欠くようになったため、少しでも税金の支払いを減らそうと考え、本件犯行に及んだもので、犯行の動機になんら酌量の余地はないこと、ほ脱額が一三五〇万円と多額であること、ほ脱率も約六〇パーセント余と高率であることなどの諸事情に照らすと、被告人の刑事責任を軽視することはできない。

そうすると、被告人は、原判決後、本件犯行を認めるに至っていること、被告人は、当初から積極的に脱税しようとしたのではなく、脱税報酬目的の脱税請負人らの強い働きかけによって、利用されて本件犯行に至った様子も窺われること、ほ脱した税金につき、これまでに二〇〇万円を納めており、残りについても、税務署と相談の上、誠実に納めていく意向であること、これまでに前科はないことなど、証拠によって認めることのできる被告人のためにしんしゃくすべき諸事情を考慮しても、罰金三〇〇万円を併科した点を含め、原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。

論旨は理由がない。

(なお、原判決が、法令の適用の項において、労役場留置及び刑の執行猶予につき、「刑法」と記載されているのは、「右改正前の刑法」の誤記と認める。)

よって、刑訴法三九六条により、本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用については、同法一八一条一項ただし書を適用して、被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 笹本忠男 裁判官 志田洋 裁判官 川口政明)

控訴趣意書

被告人 山本勝一

右の者に対する所得税法違反被告事件について、控訴の趣意は左記のとおりである。

平成一〇年二月二五日

弁護人 渡邊一平

名古屋高等裁判所 刑事二部 御中

一 第一審判決後の量刑の影響を及ぼすべき情状として、被告人は、罪を認めたという事実が認められる。

被告人は、第一審では無罪を主張していた。

しかし、第一審後、被告人は自己の行為が起訴状記載の犯行事実に当たることを明確に認識し、反省するようになった。

よって控訴審では、無罪を主張せず犯罪事実を認める予定である。

二 もとより、被告人には、確定的な犯罪事実の認識なかったことや、犯行への積極的関与がなかったことを主張をする点は第一審とは変わりはないが、控訴審では、犯罪事実について争わないという点で前提が異なるものである。

そして、右自認したという事実が認められるならば、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認められるものと考える。

したがって、自認し、反省しているという事実の取り調べを求め、原判決の破棄を求める。

三 尚被告人は、本件犯行によって、何ら利益を得ていないばかりか、今後も、二〇〇〇万円以上の重加算税等の税金を支払わなければならない立場にある。

かかる被告人が、第一審のとおり、三〇〇万円の罰金刑に処せられることは被告人にあまりに酷なので、その点につき、特に宥恕を求める。

以上

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